第13回 脳と胃

何と1年と1か月ぶりのブログ更新です。
一年は早いようでやはりそれなりの時間を重ね、世の中は変わらぬようでも変わっております。何と言ってもこのブログ、タイトルに平成という年号をつけております。こんなに早く平成が終わるかも、という事態になるとは思いませんでした。綾小路きみまろではありませんが、このブログ「平成のうちに終わるかしら?」

まだまだ端緒に着いたばかりのこのお話、長いお休みをいただきましたが、先を急ぎましょう。

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 大食の弊害は天下に満ちている。どのような国かを知りたければまずその国の人民の食物を調べてみるべきだ。主人の中川も慨然として「大原君、お強鉢(おしいばち)のことはかねて話に聞いていたが、実際そんなものか。しかしそれでよく生きていられるね胃袋が破裂しないで生命を保てるね。そういう大食の人でも六十や七十まで生きていられるのだろうか」と言った。

大原は「生きるから妙だ。七十八十になってもまだ若いものに負けないほど食う人がある。その代わり満身の栄養分を胃袋へつかってしまう。脳なぞは更に発達せん。だいたい人は生きているために食物を摂るのだけれど、大食の者は食うために生きているのだ。あれで脳を使ったらとても生きてはおられんよ。よく注意してみたまえ、大食の人は必ず脳が鈍い。脳病に悩む人は大概胃を壊すからだ。第一僕が何より証拠ではないか。君らと同じように大学へ入って試験のたびに落第して三年も遅れて何とか卒業出来たのは全く脳が鈍いからだ」と自分を例にとって答えた。これほど確かな話もない。

中川も笑い出し「それほどよく知っているならちょっと食物を控えたらよかろう。脳が鈍いのはあんまり自慢にもならんではないか」と言った。大原は「それがね、酒飲みの禁酒と同じことで、悪いと知りつつなかなかやめられん。自分でもよく知ってるが、食べ物に向かうとどうしても抑えることが出来ん。腹いっぱいに飽食した後は気が重くなってしばらくぼうっとして、脳の働きは一時全く休止するのがよくわかるよ。それは全く全身の血液が胃袋へばかり集中して脳に送るべき血液が空虚になるからだね。たとえて言えば脳の機械へ注すべき油を胃の方へ取ってしまうからだね」と言った。

「さあ、大体においてはそうに違いないが近頃研究された最新の学説によると多食した後に脳の鈍くなるのは食物の中毒作用というね。科学上の研究からその新事実が発見されたけれども妙なものさ。どんな食物でも人の体内に入ると間断なく化学作用を起こしている。決して漫然と遊んでいるものはない。健全な胃に適度な分量だけ入った食物は直ちに消化されるけれどもそれ以上の食物は胃の消化作用を受けない。受けないといってボンヤリとしてはいない。食物自身が一種の腐敗作用を起こし中毒性のものと変じて直接に脳神経を刺激する。そのため脳の働きが鈍くなって気が重たくなるような眠くなるような心持がするのだそうだ」と中川が言うと、大原は「なるほどそうかもしれん、少々気味が悪いね」と言った。「ところが君のように毎日食物中毒を起こしていては脳がすぐに消えてなくならなければならん。そこに都合の良いことがある。人体ののどには甲状腺と言っておおきな筋がある。今まで、何の働きをする筋だかわからないで、無用の長物に数えられていた。ところが近頃の研究で甲状腺は全く食物の中毒作用を防御する大きな働きがあることを発見した。常に食物の消毒作用解毒作用をして脳を保護する大忠臣だとわかったんだよ。ちょうど今まで無用視されていた副腎が澱粉消化の大効用ありと知られたようなものだ。としてみると君の脳が全く自滅してしまわないのは甲状腺のお蔭かもしれないぜ」と中川。「ありがたい訳だな。お登和さん、こんなお話を聞くと少々心細くなりましたから、もう晩餐はおしまいにしましょう。どうぞお茶をください」と大原は言った。お登和は微笑み「さし上げたくてももう種が尽きました。残らず貴君(あなた)が召し上がっておしまいで。おほほ、それでもお皿だけは残りました」と冗談を言った。

 

○食物が胃の中で中毒作用を起こしたものは甲状腺で防御するが、腸に入って門脈へ流入する毒成分は肝臓で消毒および解毒される。故に肝臓に疾患があると人は食物中毒に悩む物である。

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腹膨れれば、目の皮たるむ。

古今東西普遍の事実でしょう。食べないで生きていける人間はいないので、人類の歴史は食べるための戦いとも言えます。そして、食べることは大きな喜びであり誘惑で、そこに大きな落とし穴があったりします。

さて、おなか一杯に食べることの弊害ですが、まさに脳が鈍る、眠たくなる、のはどうしてでしょう。大原はたくさん食べた胃が膨れると消化のために体中の血液が胃に集中して脳が虚血状態になるように気がすると言っています。そして、中川の最新知識によると「食物中毒にして、その毒は甲状腺で防御される」ということが書いてあります。

 

食べた後にボーっとしてしまう感じは脳に血がいかなくなった、という感覚がぴったりしますが、現在では食後の眠気には脳内の血流はあまり関係ないということが分かっています。食べた前後の脳内の血流量はあまり差がないという研究結果も出ています。

21世紀の今よく言われるのは、血糖値が急上昇するとか、消化という行為が大変体に負担をかける、というようなことですね。

食べた後急激に血糖値が上昇するためそれを抑えるインシュリンが働き、急激に血糖値が降下するため、脳内にエネルギー源のブドウ糖が不足して脳の活動が鈍る、ということや、糖尿病に人などはそのインシュリンの出方が不安定なので、血糖値の上昇下降が不安定になることが、眠気を催したり、脳の活動低下をおこすといわれます。

そして、それらを防ぐには血糖値の上昇を穏やかにするため、食べる順を野菜を先に食べてから、ほかの料理を摂るベジファーストや、インシュリンを出す膵臓や、たくさんの酵素を作り出し解毒作用をする肝臓を強化するためには、この大原や中川の時代にはなかった食品添加物を避けるということ、あと何より腹八分目、過食を避けるということを言われています。また、こうした、血糖値の急上昇、不安定な血糖値を引き起こすのが炭水化物の消化によることが大きいため、炭水化物の摂取そのものを控えたり、糖質制限を行ったりするのもポピュラーな知識となってきています。

 

お昼ご飯のあとは眠いですよね。ある人が、高速道路のSAのメニュウをもっと工夫したら、居眠り運転が少しは少なくなるのでは?と言っていました。確かにSAの食券自動販売機、炭水化物ばかりですね。誰か、提案してくれませんかね?

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